コラム

近年導入が進むジョブ型雇用とは?~ジョブ型雇用のメリットデメリットを考える~

  • 業界分析

目次
1. ジョブ型雇用とは~ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用~
2. 日本でジョブ型雇用が広まっている背景
3.ジョブ型雇用のメリットとデメリット
4.ジョブ型雇用の事例
5.まとめ

1.ジョブ型雇用とは~ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用~

 コロナウイルス感染拡大の影響もあり、リモートワークやフレックスタイム制度の導入など企業や労働者を取り巻く環境が日々大きく変化しています。環境の変化に伴い、多様な働き方に関する制度を整える企業も増える中で一つの仕組みとして「ジョブ型雇用」という人事採用制度があるのはご存じでしょうか?

 

ジョブ型雇用とは、労働者の採用時に職務内容や勤務形態をあらかじめ労働者と企業側で定めておき、定めた範囲の中で成績評価や人材評価を行う人事制度です。専門性が高い人材を採用することを中心としてきた欧州の企業によく見られる人事制度で、対する言葉として日本で主流の「メンバーシップ型雇用」という言葉があります。

 

メンバーシップ雇用とは、新卒一括採用制度を取り入れている日本ならでは人事制度です。学生が卒業するタイミングで一括採用し、採用した若手人材を企業内で育成するためジョブローテンションをさせるなどしながら育成していきます。ジョブローテーションがあることを理由に、企業の人事裁量権が大きいのが特徴です。またメンバーシップ型雇用の場合、新卒一括採用が前提となっているのでスキルではなく、人物などを企業の社風に合わせた人材であるか(組織風土マッチするか)を重視して人材を採用するため帰属意識の高い社員育成を行うことが出来るのもメンバーシップ型雇用ならでは観点でしょう。

 

2.日本でジョブ型雇用が広まっている背景

ジョブ型雇用が広まっている背景として新型コロナウイルスの感染拡大があげられるでしょう。日本では昔から多くの企業がメンバーシップ型雇用を行っているため、会社に出社し時間単位で働き、労働時間に応じて給与を支払うという考え方をしていました。

 

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、リモートワークやフレックスタイム制度の導入が進められる中で従業員を一律の時間で管理・評価することが難しくなっているのです。またテクノロジーの進化により、リモートワークでも業務を十分に遂行できる業務ツールの発展や業務管理ツールなどの利用拡大、そして業務に必要なコミュニケーションがオンライン上で取れるようになったということもジョブ型雇用が広まっている大きな要因でしょう。

 

また、日本経済の国際競争力強化の観点からもジョブ型雇用が広がっているという見方をすることもできます。総合職採用でジョブローテーションをしながら人材育成をする場合、企業風土にマッチした離職率の低い人材を育成することが可能ですが、専門性の高い人材を育成することが難しいため、企業成長を考えたときに必要となるイノベーション人材が育ちにくいと言われています。その観点から、欧州諸国と比較するとビジネスが弱くなりがちだと考えられるため、ジョブ型雇用を導入している企業もあります。

 

ジョブ型雇用_メリット_デメリット

 

3.ジョブ型雇用のメリットとデメリット

ここまで、ジョブ型雇用の概要や、制度が拡大している背景について触れてきました。ジョブ型雇用の企業側と労働者側のメリットとデメリットについても考えていきましょう。

 

【ジョブ型雇用メリット】

◆労働者メリット◆

  • 専門スキルを身に着けやすい(スキルを伸ばしやすい)
  • 社内異動や転勤などがないためライフワークバランスがとりやすい
  • 業務成果に応じて評価されるため、評価が分かりやすい

 

◆企業側メリット◆

  • 専門性やスキルの高い人材の採用が出来る
  • 雇用にあたって発生するコストが明確である
  • 採用時に評価軸をあらかじめ決めるため、評価がしやすい

 

ジョブ型雇用では持っているスキルを前提として採用するため、チーム内でよくある業務内容が被ってしまい責任の所在が不明瞭になってしまうということも調整し避けることが出来ます。

 

【ジョブ型雇用デメリット】

◆労働者デメリット◆

  • 専門スキルを伸ばし続ける、自己研鑽が必要
  • 企業内に専門スキルを必要とする業務がなくなった際に解雇される可能性がある
  • 専門職のため、キャリアの方向転換が難しい

 

◆企業側デメリット◆

  • 採用コストが高い(人材を見つけにくい)
  • 育成をすることが難しいため、ゼネラリストにすることが出来ない
  • 人事権の行使が難しい(雇用時の契約に基づいて行使する必要がある)
  • 市場価値が高い人材が多いため、人材変動が激しくなりやすい

 

専門性やスキルの高い人材は、常に他社から採用されるリスクが潜んでいるため流出しないよう働きやすい雇用制度を整えておくことが重要でしょう。近年だと、専門スキルを労働者が活かすことが出来るよう副業を認める企業なども出てきました。

 

4.ジョブ型雇用の事例

では、実際にどういった企業がジョブ型雇用を導入しているのでしょうか。大手企業だと資生堂、カゴメ、日立製作所、富士通などがジョブ型雇用を積極的に取り入れていくことを示しています。ここでは日立製作所がジョブ型雇用制度を導入した事例をご紹介させていただきます。

日立製作所がジョブ型雇用を推進した背景はグローバル企業への転換が最大理由といえるでしょう。25万人の人材情報をデータベース化させ、これに基づいた人事評価・給与制度を完成させたのです。そこから職種と階層ごとにジョブディスクリプション(職務記述書)を制作しジョブ型への転換を行いました。新型コロナウイルスの感染拡大によって大きく進んだように見えた日立製作所のジョブ型雇用制度ですが実は10年の長きに渡って制度を整えるべく体制を組んでいたのです。

 

ジョブ型雇用と一口に言っても、導入に先立って様々な課題があるのが実情です。例えばジョブ型採用の社員と、そうでない社員の待遇格差をどのように対応していくのかということや、採用時のジョブディスクリプションを誰がどのように評価するかなど制度設計面や運用面など含め粒度の大きな課題から細かな課題までクリアしていかねばなりません。

 

ジョブ型雇用の事例

 

5.まとめ

ここまでジョブ型雇用の概要やメリットデメリットに触れてきました。

ジョブ型雇用は新型コロナウイルスの感染拡大も相まって注目されている人事制度の一つです、しかし実際には導入に向かない企業もあるということを知っておかねばならないでしょう。すべての企業にジョブ型雇用が向いているわけではないのです、例えばジョブディスクリプションがなくても、サービスを提供するにあたり異動や転勤をしなくてもよい企業もあるでしょうし、もともと専門職採用が多くジョブ型雇用を制度として取り入れなくともよい企業もあるかと思います。

 

重要なのは企業側も労働者側も、双方にとって良い雇用形態を考えることでしょう。そして制度をメンバーシップ型雇用かジョブ型雇用かという二軸だけで考えるのではなく、企業の実態や今後あるべき姿に即した形で人事制度を設計することが重要です。

 

労働者側も「総合職で採用されたからと言ってゼネラリストとして会社に帰属し働いていく」、「特殊なスキルを持っているから専門職としてスキルアップしながら働いていく」という画一的な考え方だけ持っているのは危険です。今後どのようなスキルを自分は伸ばしていきたいのか、今後世界経済・日本経済はどのような変化をすることが考えられるか、社会の変化はどのようになるのかを考え、どういった価値提供を会社にすることが出来るのかを日々考えていくことが大切です。それにより採用制度にとらわれない市場価値の高い人材として活躍することが可能でしょう。